政権の基盤が整うにつれ、夫婦の間には激しい感情の摩擦が生まれる。その最たる例が、政子の妊娠中に起きた「亀の前事件」だ。頼朝が極秘裏に愛妾・亀の前を匿っていたことを知った政子は激怒。後妻打ち(うわなりうち)の習わしに乗り、密かに手配した武士に命じて愛妾の館を破壊するという苛烈な復讐を決行した。
頼朝はこの暴挙に激怒し、関与した武士を処分したものの、政子を強く咎めることはできなかった。政子の実家である北条氏の後押しなしには政権運営が成り立たないという政治的リアルがあったからだ。愛憎と利害が複雑に絡み合う二人の関係は、教科書の行間からは見えてこない人間味にあふれている。