ボカロ曲の中でも本作が「歌い手泣かせ」と呼ばれる理由は、単に最高音が高いからだけではありません。ボーカル構造を音楽理論的に紐解くと、歌唱難易度を跳ね上げている3つの明確な要因が存在します。
第1の要因は、楽曲の終盤に訪れる半音転調の罠です。2番が終わり、すでに喉が疲弊した状態で迎えるラスサビにおいて、キーが半音上がります。これにより、サビのメインメロディの最高音がhiD#から一気にhiF(F5)へ押し上げられます。この一線を超えることで、多くの歌い手が声帯のコントロールを失い、ピッチ(音程)が乱れる原因となっています。
第2の要因は、BPM 148の疾走ビートとブレスポイント(息継ぎ)の極端な少なさです。GUMIをはじめとするボーカロイドは呼吸を必要としないため、人間が歌うには小節の隙間がタイトすぎます。息を吸うタイミングを1箇所でも逃すと、次のフレーズで声量が落ちて失速する構造になっています。
第3の要因は、「激しい感情表現」と「ミックスボイスの維持」の両立です。ユリイ・カノン特有の切迫感と哀愁を帯びた世界観を表現しようと感情を込めすぎると、喉に過度な力が入り、高音域で喉締め(張り上げ)が発生してしまいます。脱力した共鳴腔の使い方と強い表現力の共存が不可欠です。