家電事業が相次いで中国企業に渡ったのであれば、「なぜ東芝本体そのものは中国に買収されなかったのか?」という疑問が当然湧いてきます。巨額の資金力を持つ中国の国有企業や巨大テック企業にとって、東芝本体を買収することは魅力的な選択肢に見えたはずです。
その答えは、日本の法律と国家安全保障の防壁にあります。最大の決定打となったのが、改正外国為替及び外国貿易法(外為法)の規制です。
東芝は単なる電機メーカーではありません。日本の原発プラントの設計・保守を一手に担う原子力事業者であり、自衛隊の潜水艦用バッテリーやレーダーシステム、ミサイル関連機器などを防衛省に納入する国防の最前線企業でもあります。さらに、送電網を支える重電システムや、世界最高峰の暗号強度を誇る量子暗号通信技術など、日本の根幹を揺るがす機微技術の塊です。
日本政府は2020年に外為法を厳格化し、国の安全を損なう恐れが大きい事業を「コア業種」に指定しました。東芝はそのド真ん中に位置しています。外為法に基づき、外国資本が東芝の株式を1%以上取得しようとするだけでも事前届出と厳格な政府審査が必要となります。
経済安全保障をめぐる米中対立が激化する国際情勢下において、中国企業が日本の原発技術や防衛インフラの中枢である東芝本体を買収することは、国家として100%許可できない構造になっていたのです。東芝本体の身売り先が最終的に「日本企業・国内金融機関のみで構成されたJIP連合」に絞られたのは、経済合理性以上に、この安全保障上の法的制約が決定打となった結果でした。