「ベランダから周囲をくまなく見渡したのに、火花ひとつ見えない」「建物に遮られているわけでもないのに、音だけがクリアに響く」――こうした現象に首をかしげた方は多いはずです。これには花火音だけ聞こえる理由を説明する明確な物理的メカニズムが存在します。
音波は気温が高い場所ほど速く進み、気温が低い場所ほど遅く進む性質を持っています。夜間、地面が冷え込んで上空の気温の方が高くなる「気温逆転層(接地逆転)」が発生すると、上空に向かった音波が地上側へと屈折して曲がり落ちてきます。この現象により、通常なら減衰してしまうはずの重低音が、山や建物を飛び越えて10km〜15km以上離れた住宅街まで鮮明に届いてしまうのです。
さらに、雲が低く垂れ込めている日は、雲底と地表の間で音波が何度も反射を繰り返す「音の反響現象」が起こります。加えて、風上から風下に向かって音波が押し流されるため、「直線距離で15km以上離れた隣町の近所の花火どこかで上がっている音」が、まるで隣の公園で鳴っているかのような錯覚を引き起こします。光は直進しかできませんが、音は障害物を回り込んで広がるため、「音はすれども姿は見えず」という状況が日常的に生まれます。