皮膚科医が最も警鐘を鳴らし、医療相談窓口に後を絶たないトラブルが「顔面への安易な塗布」と「長期間の漫然使用」です。「頭皮のかゆみが引いたから、余ったローションをおでこや頬の肌荒れにも塗ってみた」という自己判断は、取り返しのつかない肌トラブルを引き起こす引き金になります。
生体における薬物の経皮吸収率は、部位によって桁違いに異なります。前腕(腕の内側)の吸収率を「1.0」とする基準指標において、頭皮は「約3.5倍」にとどまるのに対し、顔面(頬・額)は「約13倍」、まぶたに至っては「約42倍」に跳ね上がります。頭皮用に設計されたストロングクラスのステロイドを顔に塗布すると、必要以上の薬理作用がデリケートな皮膚深部へ過剰に浸透してしまうのです。
さらに深刻なのが、2週間〜1ヶ月以上連続して塗り続けることで生じる「局所性副作用」の連鎖です。主な病態は以下の通りです。
- 皮膚萎縮(ひふいしゅく):ステロイドが線維芽細胞のコラーゲン産生を抑制し、表皮や真皮が紙のように薄くなる現象。皮膚の弾力が失われ、外部刺激に対して過敏になる。
- 毛細血管拡張症(赤ら顔):真皮の菲薄化に伴い、皮下の毛細血管が透けて赤く浮き出る。一度完成すると、薬を中止しても回復までに数ヶ月から数年の歳月を要する。
- 酒さ様皮膚炎・口囲皮膚炎:顔面への長期連用を急激に中止した際に起こる激しいリバウンド。毛穴に一致した丘疹や膿疱が多発し、灼熱感と激痛に苛まれる難治性の病態。
- ステロイドざ瘡・局所感染症:局所の免疫が抑制されることで、常在菌であるアクネ菌やマラセチア真菌が異常増殖し、ニキビやカビによる化膿巣が爆発的に広がる。
「かゆみがぶり返すから」と塗り薬を手放せなくなっている場合、それは病気が治っていないのではなく、すでにステロイドの連用による副作用が出現しているシグナルである可能性を疑わなければなりません。