なぜ、これほどまでに菌の増殖を許してしまったのか。その主たる要因は、製造時期と保管条件の決定的なミスマッチにあった。イベント当日に向けて大量の在庫を確保するため、販売の数日前、場合によっては1週間近く前から製造が進められていたとされている。それにもかかわらず、焼き上がった製品は適切な冷蔵・冷凍管理を施されることなく、室温のまま長時間放置されていた。
ここで拍車をかけたのが「防腐剤不使用」「砂糖控えめ」という現代的なトレンドの誤った解釈だ。砂糖は菓子に甘みをつけるだけでなく、食品中の水分を抱え込んで微生物が利用できる水分(水分活性)を奪うという極めて重要な保蔵の役割を担っている。砂糖を極端に減らし、保存料も一切使わないまま密閉袋へ詰め込めば、袋内部は湿度100%の「細菌培養温室」と化す。
焼き立ての熱が完全に取れないうちに個包装されたことも致命的だった。内部に閉じ込められた水蒸気が結露となり、マフィン表面を湿らせ、芽胞から発芽した菌が一気に増殖する理想的な環境を整えてしまったのだ。