映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』において、鑑賞者の多くが口を揃えて「ヤバすぎる」「完全に呑み込まれた」と戦慄するのが、二階堂ふみ氏が演じた山崎富栄の変貌ぶりです。物語序盤では、戦争で夫を失い、真面目に美容師として働きながらも心に埋められない孤独を抱えた楚々とした女性として登場します。しかし、太宰治との出会いによって彼女の運命の歯車は狂い始め、やがて太宰の首を絞めるかのような狂信的な愛へと暴走していきます。
なかでも大きな話題を呼んだのが、小栗旬氏との間で繰り広げられた過激な濡れ場やベッドシーンの数々です。蜷川実花監督特有の極彩色かつ耽美的なライティングのなか、雨に打たれながら貪るように求め合う抱擁シーンや、自室で太宰の体を絡め取りながら「一緒に死んでくださる?」と囁く一連のベッドシーンは、単なる肉体的なエロティシズムの枠を完全に超越していました。
当時の特番インタビューや映画関係者の証言によると、撮影現場での二階堂ふみ氏の集中力は凄まじく、カメラが回った瞬間に放たれる眼光の鋭さは共演者を圧倒していたといいます。主演の小栗旬氏自身も公開当時の舞台挨拶や公式インタビューにおいて、「ふみちゃんに迫られるシーンは、演技だと分かっていても本気で殺されるんじゃないか、太宰のようにそのまま魂ごと道連れにされるんじゃないかという恐怖を感じた」と率直な心情を吐露していました。一切の妥協を許さない体当たりの熱演が、スクリーンの枠を破って観客に冷や汗をかかせるリアリズムへと昇華されたのです。