過酷を極めた富良野の撮影現場で、精神的な支えとなっていたのが主人公・黒板五郎役の田中邦衛でした。岩城滉一と田中邦衛の関係は、単なる共演者という枠組みを遥かに超え、実の父子や師弟のような深い愛情で結ばれていました。
まだ俳優としての基礎が固まりきっていなかった初期の現場において、寒さとプレッシャーで神経を尖らせる岩城を包み込んだのが、田中邦衛の底知れぬ包容力でした。岩城は取材に対し「邦衛さんは、僕がどれだけ尖って現場に入っても、ニコニコしながら『滉一、寒いだろ。これ食え』と温かいものを差し出してくれた。あの人の前では嘘がつけなかった」と語り、役者としての佇まいそのものを田中から学んだと述懐しています。
過酷な環境下での岩城滉一の北の国から撮影秘話として有名なのが、冬のロケにおける極限状態のエピソードです。氷点下20度を下回る厳冬期の富良野では、息をするだけで気管が痛み、少しでも肌を露出させれば凍傷の危険に晒されます。岩城は暖房の効かない納屋のシーンや雪中での作業シーンでも一切弱音を吐かず、地元・富良野の青年団と酒を酌み交わして本物の酪農青年のメンタリティを身体に染み込ませていきました。
その絆の深さが結実したのが、『'98時代』における草太の納棺・通夜のシーンです。棺の中に横たわる岩城滉一の姿を前に、田中邦衛、吉岡秀隆、中嶋朋子らメインキャストが流した涙は、演技の枠組みを完全に突破した本物の慟哭でした。吉岡秀隆との共演シーンを振り返っても、純を見つめる草太の眼差しには、幼少期から吉岡の成長を見守り続けた岩城自身の偽らざる情愛が宿っていました。劇中で草太が残した「純、富良野を頼むぞ」という無言のメッセージは、そのまま昭和から平成へとバトンを渡す役者たちの魂の継承でもあったのです。