言葉遣いにおいて最も事故が起きやすいのは、「文法上は間違っていないが、語感が失礼に響くケース」です。「元気でいますか」というフレーズは、「元気でいる」という動詞句に丁寧語の「ます」、疑問の終助詞「か」が接続した構成になっています。一見すると丁寧な問いかけのように思えますが、ここには尊敬語が含まれていません。
日本語の敬語体系において、相手の状態を直接尋ねる行為は、質問者側の立ち位置を優位にしがちです。「元気でいますか」という響きは、学校の担任が生徒に「元気にやってるか?」と声をかけたり、親が子どもの近況を気遣ったりする際の「上から下への眼差し」を無意識に想起させます。受け取る側が年長者や役職者である場合、「なぜ部下や外部の人間から、健康状態をチェックされるような口調で尋ねられなければならないのか」という心理的抵抗を生む原因がここにあります。
コミュニケーション論の観点からも、健康や精神状態といったプライベートな領域に対する直接的な問いは、慎重に扱うべき領域に属します。親しい関係であれば「気遣い」と解釈される文脈も、上下関係や利害関係が介在する場面では「無遠慮な詮索」へと変質してしまいます。目上の相手に対して健康を気遣う姿勢を示す際は、直接的な問いかけを避け、「相手の無事や息災を祈念する」形式に昇華させるのが日本語本来のエチケットです。