移転後に広島空港を襲った最大の誤算が、山間部特有の「濃霧」でした。瀬戸内海からの湿った空気が標高約331メートルの高原に流れ込み、放射冷却によって春先や秋口に深い霧が発生。開港初期から2000年代半ばにかけては、視界不良によるダイバート(目的地変更)や欠航が頻発し、ビジネス客から「大事な商談で使えない」と激しい批判を浴びました。
この不名誉な汚名を返上した転機が、2008年から2009年にかけて段階的に整備された最先端計器着陸装置「CAT-IIIb(カテゴリー3b)」の運用開始です。
一般的な地方空港で採用されている「CAT-I」では、滑走路視程(RVR)が550メートル以上なければ着陸許可が出ません。しかしCAT-IIIbを導入した広島空港では、地上誘導灯の整備と航空機側の高度なアビオニクスにより、視界わずか100メートル未満(地上高制限なし)の極限状態でも自動着陸が可能となりました。このシステムが稼働した結果、かつて年間数十便に達していた霧による欠航はほぼ一掃され、現在の運航状況は年間就航率約99.5%という極めて高い数値を叩き出しています。
リアルタイムで運航状況を確認すると、視程が遮られた朝霧の朝でも、羽田からの始発便が何事もなかったかのように滑走路にタッチダウンする光景が日常化しています。現在ネットに残る「広島空港は霧ですぐ欠航する」という言説は、十数年前の記憶がアップデートされていない典型的な誤認といえます。