「ギターを何年も弾いているのに、指板のどこが何の音かパッと答えられない」という悩みは、決して個人の記憶力やセンスの欠如によるものではありません。認知心理学および楽器構造の観点から分析すると、ギターの指板は人間のワーキングメモリ(作業記憶)に大きな負荷をかける構造的トラップを抱えています。
第一の理由は、1つの音名に対して押さえるべき位置が複数存在する「同音異弦(ユニゾン)」の仕組みです。例えばピアノの鍵盤であれば「真ん中のド(C4)」は鍵盤上に1箇所しか存在しません。しかし一般的な22フレットのギターでは、5弦3フレット、6弦8フレットに全く同じ高さのC4が存在し、さらにオクターブ違いのド(C3、C5)を含めると指板全体に無数の「ド」が散らばっています。初心者が「ド=特定の1箇所」として暗記しようとすると、情報量が爆発して脳がフリーズしてしまうのです。
第二の理由は、多くの初心者が頼り切ってしまう「ギターTAB譜ドレミ変換」の思考停止トラップにあります。TAB譜(タブラチュア)は「何弦の何フレットを押さえるか」を数字で直感的に示す優れた記譜法ですが、数字だけを追って指を動かす癖がつくと、今自分が「何の音階(音名)」を「何の役割(度数)」で弾いているのかという認識が完全に抜け落ちてしまいます。その結果、TAB譜がなければ1音もメロディが弾けず、アドリブやコードアレンジの段階で完全に足踏みしてしまう構造的停滞が生じます。