金刀比羅宮を語る上で避けて通れない現代史の一大事件が、2020年に断行された神社本庁からの離脱(単立宗教法人化)です。全国約8万社を傘下に収める包括組織である神社本庁から、全国屈指の大社が離脱したニュースは宗教界・言論界に大きな衝撃を与えました。
発端となった直接的な引き金は、2019年に行われた皇位継承に伴う重要祭祀「大嘗祭」に際し、神社本庁から送られるべき神饌料(金一封)が指定期日までに届かなかったことでした。金刀比羅宮側は「天皇陛下の御代替わりに伴う最重要祭儀への誠意が欠落している」と厳しく抗議。背景には、長年にわたる本庁中枢の不透明な不動産取引問題を巡る裁判や組織ガバナンスへの不信感、地方有力大社と中央組織との間の積年の軋轢が存在していました。
一部のメディアでは「伝統破壊」「観光至上主義への傾斜」といった短絡的な批判も散見されましたが、現場取材と当時の声明文を照らし合わせると、実態はむしろ「伝統祭祀と天皇崇敬の純粋性を守るための保守的決断」であったことが浮き彫りになります。単立神社となった後も、伊藤若冲や円山応挙の障壁画を伝える奥書院・表書院の維持管理、古式ゆかしい例大祭の厳格な斎行は一切揺らぐことなく継続されており、自律的な運営基盤を保ち続けています。