歴史上、この職を一躍有名にした人物といえば坂上田村麻呂だ。平安時代初期、桓武天皇の命を受けた彼は、東北地方の平定に向けて軍を率いた。この時点での征夷大将軍は、あくまで作戦期間中のみ権限を与えられる文字通りの「出張司令官」であった。
現地での軍事行動を円滑に進めるため、坂上田村麻呂には現場での即断即決権限が与えられていた。この「現場への大幅な権限委譲」こそが、のちに武家が独自政権を樹立する際の遠因となる。しかし、軍事遠征が終われば官職を返上するのが当時のルールであり、常設の政治職となるなど誰一人として想像すらしていなかった。