『春よ、来い』が放つ独特の哀愁と透明感の根源は、メロディラインとコードプログレッションの絶妙な掛け合わせにあります。松任谷由実が紡ぎ出す旋律は、日本の古謡にも通じる「ヨナ抜き音階(ドレミソラ)」の響きを色濃く残しており、これが日本人の琴線に触れる最大の要因です。
しかし、単なる和風フォークに終わらないのがユーミンサウンドの真骨頂。原曲のキーはB♭メジャー(変ロ長調)を基調としていますが、サビやBメロにおいて単純な主要3和音にとどまらず、サブドミナント・マイナーや分数コード(オンコード)が巧みに配置されています。切なさが急激に増すポイントでは、ベース音を滑らかに下降・上昇させるクリシェ進行や代理コードが使われ、聴き手の感情をふわりと持ち上げるような浮遊感を生み出しています。
この「和の情緒を湛えた親しみやすいメロディ」と「ジャズやフレンチ・ポップスの洗練を宿したコード進行」のハイブリッドこそが、何年経っても色褪せない感動をもたらす正体です。