正しい読み方は「かぜかおる」(歴史的仮名遣いでは「かぜかをる」)です。名詞として「薫風(くんぷう)」と漢語で読まれることもありますが、和語である大和言葉として「風薫る」と訓読みすることで、やわらかく優雅な余韻が生まれます。
この表現の原点は、古代中国の漢詩に見られる「薫風自南来、殿閣生微涼(薫風南より来たり、殿閣微涼を生ず)」という唐代の詩句にあります。南から吹き寄せる初夏の穏やかな風が宮殿に心地よい涼しさをもたらす様を讃えたこの概念が日本に伝来し、日本の風土と結びつきました。
平安時代中期の歌人・源重之が詠んだとされる『後拾遺和歌集』の和歌、「風かをる 卯月の野辺の 桜草 手折ればあかぬ 色を見せつつ」をはじめ、平安貴族たちは風そのものに香りがあるのではなく、「風が野山の草花や若葉の香りを身にまとって運んでくる」という繊細な知覚を和歌に詠み込みました。古来の日本文化では、視覚的な青葉の美しさと嗅覚的な草木の息吹をひとつの現象として捉える共感覚的な感性が発達していた事実が窺えます。
俳句の世界においても、「風薫る」は「夏(初夏)」を代表する主峰級の季語です。江戸時代の俳諧から近代俳句に至るまで、初夏の澄み渡る大気と旅情、あるいは日常の鮮烈な瞬間を切り取る言葉として愛され続けてきました。