「オクラを買ってきたものの、とりあえず熱湯に放り込んで適当に刻んでいる」という方は、せっかくの栄養素の大半を捨ててしまっている可能性があります。水溶性食物繊維やカリウム、ビタミンC・葉酸などの微量栄養素は、水と熱に対して非常にデリケートです。オクラの持つポテンシャルを100%引き出すには、科学的根拠に基づいた下処理のプロトコルが存在します。
まず欠かせないのが「板ずり」です。まな板の上にオクラを並べ、塩を適量振って手のひらで軽く押し転がすことで、表面の微細なうぶ毛が綺麗に削ぎ落とされます。これにより口当たりが滑らかになるだけでなく、表皮のクチクラ層が刺激され、加熱時の熱伝導と鮮やかな緑色の発色が飛躍的に向上します。
そして最大の分かれ道となるのが「ヘタとガクの処理」です。実の先端をズバッと切り落としてから茹でてしまうと、切り口から内部の空洞にお湯が侵入し、大切な水溶性ペクチンが鍋の中へと一気に流れ出してしまいます。必ずヘタの先端だけを薄く切り落とし、ガクの硬い角を鉛筆を削るようにぐるりと面取りして、実に穴を開けない密閉状態をキープしたまま加熱するのが鉄則です。
茹で時間については、沸騰した湯で「1分〜1分30秒」が黄金比率。これ以上の長時間の加熱は細胞組織を破壊しすぎてペクチンのゲル構造を損ない、ビタミンCの流出を招きます。茹で上がった後は冷水に長く浸けず、ザルに広げて素早くうちわ等で粗熱を取る「陸蒸し(おかむし)」を行うことで、水っぽさを完全に排除できます。
さらに、ネバネバの粘度を爆発的に高める秘訣は包丁の使い方にあります。ペクチンは細胞膜の内側に格納されているため、細胞壁を細かく壊せば壊すほど、空気中の酸素や水分と結合して強い粘りを放ちます。丸のままよりは乱切り、乱切りよりは薄い小口切り、小口切りよりは包丁で細かく叩いた「叩きオクラ」やすり鉢を使った「すりおろし」にすることで、粘度は約3〜5倍にまで跳ね上がります。