インターネット上の言説では「自分は100%縄文人だ」「弥生人の血は混ざっていない」といった極端な二項対立が語られがちだが、これは集団遺伝学の観点からは明らかな誤謬である。かつて人類学者・埴原和郎氏が提唱した「二重構造モデル(縄文人と渡来弥生人の混血)」は日本人の成立を説明する基本理論として定着したが、2020年代の最新ゲノム解析によってパラダイムシフトが起きている。
2021年、金沢大学や理化学研究所、アイルランドのダブリン大学トリニティカレッジを中心とする国際共同研究グループが、国際学術誌『Science Advances』に画期的な論文を発表した。古代人のゲノム解析を弥生時代だけでなく古墳時代(約1700年前〜1400年前)の人骨にまで拡張したところ、現代日本人は「縄文人」「弥生人」に加えて、東アジア(漢民族系)に起源を持つ集団が大量に流入した「古墳人」が加わった『三重構造』であることが判明したのだ。
研究データによると、現代の本州日本人が持つゲノムの内訳は、縄文人由来が約13%、北東アジア系弥生人由来が約16%、そして古墳時代前後に渡来した東アジア系由来が約71%を占めている。つまり、顔立ちがどれほど縄文人離れして濃い人物であっても、遺伝子の8割以上は渡来系集団の遺伝的基盤の上に成り立っている。逆に、あっさりとした薄い顔立ちの人であっても、体質や指先の形状に縄文人の遺伝子がひっそりと受け継がれている。「純血の縄文人」は現代の日本列島には存在せず、すべての日本人は数千年の混血の歴史を宿したハイブリッドであるという科学的事実を認識することが不可欠だ。