なぜ名古屋の郷土料理である「味噌煮込みうどん」には八丁味噌(豆味噌)が使われるのか。その理由は、調理科学における「耐熱性」の決定的な違いにあります。
米麹を使う一般的な味噌は、加熱しすぎると米麹由来の繊細な香り成分が蒸発し、味が劣化(いわゆる味噌の煮えばなを過ぎた状態)してしまいます。そのため、通常の味噌汁は「沸騰直前に火を止める」のが鉄則です。しかし、豆味噌や八丁味噌は、大豆タンパク質が長期分解されて生まれたアミノ酸やペプチドが主成分であるため、「煮込めば煮込むほどコクが増し、熱に負けない」という極めて稀有な特性を持っています。土鍋でグツグツと沸騰させながら生のうどんを煮込む味噌煮込みうどんや、牛すじを半日かけて煮込む「どて煮」において、八丁味噌は他の追随を許さない圧倒的なパフォーマンスを発揮します。
一方、家庭で日常的に楽しむ味噌汁として使う場合、八丁味噌単体では「甘みがなく、酸味と渋みが強すぎる」と感じる人が大半です。プロの料理人は、以下のように使い分けを行っています。
- 日常のお椀(味噌汁):赤だし味噌を使用するか、信州味噌(白・淡色)7に対して八丁味噌3をブレンドする「合わせ味噌」にして、双方の長所を引き出す。
- 肉料理・煮込み料理:八丁味噌をベースに酒やみりんを加え、じっくり火を入れて肉の臭みを抑えつつ重層的な旨味を定着させる。
- 焼き物・田楽:八丁味噌に砂糖とみりんを練り込み、照りが出るまで加熱して芳ばしい「味噌だれ」に仕立てる。