鼻血の約80〜90%は、鼻の入り口から約1〜1.5cmほど内側に入った鼻中隔(鼻の左右を仕切る壁)の前下端にあるキーゼルバッハ部位から発生します。この領域は、外頸動脈と内頸動脈の双方から枝分かれした複数の細い動脈が集まって網目状の毛細血管網を形成しており、極めて粘膜が薄い構造をしています。しかし、「大人になってから同じ側だけが何度も切れる」という現象が起きている場合、偶発的な摩擦以上の構造的・病理的トラブルが発生していると考えるのが臨床の定説です。
大人の鼻血が頻発する理由として最も身近でありながら見落とされやすいのが、鼻中隔弯曲症による出血です。成人の約7〜8割は鼻中隔が左右どちらかにわずかに湾曲していますが、その突出が強い場合、曲がって狭くなった側の粘膜に呼吸時の気流が集中して当たります。気流の乱れによって粘膜が慢性的に乾燥し、防御バリアが失われて毛細血管が露出しやすくなる結果、常に同じ側ばかりが擦過や外気刺激で破綻するサイクルに陥るのです。
さらに、粘膜直下の微小な血管が異常に拡張・増生して脆くなる鼻粘膜の毛細血管拡張症や、遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)の局所発現も片側出血の大きな要因です。一度破綻した血管の上に形成された仮初めの「かさぶた」は、血圧のわずかな上昇やくしゃみ、洗顔時の物理的圧迫で容易に剥がれ落ちます。傷が完全に上皮化して治癒する前に再び出血を繰り返すため、本人の自覚としては「治ったはずなのに同じ側からまた垂れてきた」という悪循環を辿ることになります。