当事者が中期中絶という過酷な決断に至る背景には、個別の複雑な事情が横たわっています。厚生労働省の衛生行政報告例や支援団体の相談データによれば、中期中絶を選んだ理由と経緯は主に3つのパターンに大別されます。
第1に、出生前診断や超音波検査によって胎児の重篤な染色体異常や形態異常が判明したケースです。確定診断が出る時期はどうしても妊娠中期にずれ込むため、「産んであげたい」という強い願いと現実的な養育環境の限界との間で極限まで苦悩した末の選択となります。
第2に、予期せぬ妊娠の発覚が遅れたケースです。月経不順や無月経を放置していた場合や、つわりを単なる体調不良と誤認していたケース、またパートナーからのDVや性暴力による支配関係から逃れられず、初期中絶のタイムリミットを過ぎてしまった状況が該当します。
第3に、妊娠初期から中期にかけてパートナーとの関係破綻や失踪、あるいは急激な経済困窮に直面し、養育の継続が客観的に不可能となったケースです。日本の母体保護法第14条では、妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある場合、あるいは暴行・脅迫による妊娠の場合にのみ、母体保護法指定医による人工妊娠中絶が認められています。
法的なハードルとして立ちはだかるのが中期中絶の同意書要件です。現行法では原則として本人と配偶者(パートナー)双方の署名・捺印が義務付けられています。配偶者の生死不明、DV被害、心身の喪失などの正当な理由がある場合は本人の同意のみで処置が可能ですが、医療機関によっては男性側の同意書取得を厳格に求めるあまり、処置の受入先探しが難航する事例も現場で報告されています。