背中のブツブツを「ニキビ」と決めつけて治療を続けた結果、症状が悪化してしまう最大の要因がマラセチア毛包炎の見落としです。医療関係者の間では周知の事実ですが、背中の毛包トラブルの少なからぬ割合が通常のアクネ菌による尋常性ざ瘡ではなく、真菌(酵母カビ)の一種であるマラセチア菌の過剰増殖によって引き起こされています。
アクネ菌は嫌気性の「細菌」ですが、マラセチア菌は皮脂を好む好脂性の「真菌」です。生物学的な分類が根本から異なるため、一般的なニキビ治療薬(抗生物質やイブプロフェンピコノール配合の外用薬)をマラセチア毛包炎に使用しても効果はありません。それどころか、抗菌薬によって常在細菌叢のバランスが崩れると、ライバルがいなくなったマラセチア菌がさらに増殖する「菌交代現象」を引き起こし、症状が急速に悪化するリスクすら存在します。
両者の臨床的な見分け方には特徴的な傾向があります。アクネ菌によるニキビは、大きさや形状が不揃いで、毛穴の詰まりである「面皰(コメド)」を伴うのが典型的です。一方、マラセチア毛包炎は直径2〜3ミリ程度の均一な赤い丘疹や小膿疱が多発し、面皰がほとんど見られず、時折軽い痒みを伴う点に特徴があります。
皮膚科の診察室では、必要に応じて病巣の膿や角質をピンセットで採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液で溶かして顕微鏡で観察する直接鏡検を実施します。マラセチアの胞子や菌糸が確認されれば、抗生物質ではなく抗真菌薬(ケトコナゾール外用薬やイトラコナゾール内服薬など)が選択されます。この鑑別診断は一般家庭では絶対に不可能な領域であり、皮膚科を受診すべき最大の根拠となっています。