劇中で「すべての命の源である海の母」として描かれるグランマンマーレの正体は、特定の神話に登場する単一の神ではなく、宮崎駿監督が複数の文化的モチーフを融合させて生み出した「海そのものの具現化」です。
名前の響きは、イタリア語の「Gran(雄大な・偉大な)」と「Mare(海)」、そして英語圏や仏語圏で祖母や母を親愛を込めて呼ぶ「Grand-mère / Mamma」を掛け合わせた造語とされています。ジブリ公式の美術設定や解説資料によれば、彼女は受胎や出産という生物学的な営みを超え、太古のデヴォン紀から続く生命の循環そのものを司る霊的存在として設定されています。
造形とキャラクター性の大きなモデルとなったのは、日本古来の信仰における「観音菩薩(慈母観音)」です。宮崎監督は制作当時のインタビューにおいて、「海は命を生み出す母であると同時に、容赦なく命を奪う無慈悲な存在でもある。その両義性を包み込むのは、仏教の観音様のような絶対的な慈悲の姿であるべきだ」という趣旨を語っています。船乗りたちが彼女の姿を目撃した際、恐れおののくのではなく「グランマンマーレだ、観音様だ!」と手を合わせて拝むシーンは、日本人が古来より抱いてきた自然への敬畏と信仰心が色濃く反映された象徴的な描写です。