池井戸潤が描く『ノーサイド・ゲーム』の真髄は、エリート街道から外された主人公たちが、逆境の中で自らのプライドと仲間を信じて愚直に立ち向かう「不屈の精神」にあります。米津玄師はこの物語と向き合うにあたり、スマートに生きることが称賛されがちな世の中で、傷だらけになりながら情熱を燃やす姿を「馬鹿正直」という言葉に見出しました。
タイトルの『馬と鹿』は、まさに「馬鹿(ばか)」という言葉を分解したものです。世間から見れば報われないかもしれない努力、効率とは程遠い泥臭い挑戦――傍から見れば「馬鹿な生き方」に見える情熱こそが、何よりも尊く美しいのではないかという米津玄師の深い人間讃歌が込められています。
歌詞の中には、「これが愛じゃなければ何と呼ぶのか」という根源的な問いかけや、傷つき打ちのめされながらも立ち上がる姿を描いたフレーズが随所に散りばめられています。ただのラグビー讃歌にとどまらず、社会の荒波に揉まれながら生きるすべての働く人々が「自分の痛みや孤独を肯定された」と感じる普遍的なメッセージ性こそが、多くの涙を誘った最大の理由です。