発達心理学やユング心理学の観点から本作を分析すると、ウルスラという存在の輪郭はさらに深みを増します。思春期における自我同一性(アイデンティティ)の危機において、個人はしばしば「自分が何者であるか」を見失います。キキにとっての「魔女として空を飛ぶこと」は、それまで息をするように当たり前だった無意識の特技でした。しかし都会に出て他者と比較された瞬間、それは「職業」や「評価の対象」へと変質し、プレッシャーによって機能不全を起こします。
ここで心理学的に極めて重要な役割を果たすのが、ウルスラという「心理的移行対象(メンター)」です。家族でもなく、雇い主でもなく、利害関係の一切ない他者でありながら、自分と同じ苦しみを通ってきた年長の存在。彼女はキキに対して「飛べなくなったこと」を一切責めず、欠落した自己をそのまま肯定します。
一人二役という音響設計が示唆するように、ウルスラはキキの深層心理に存在する「成熟した内なる自己(インナーアダルト)」の投影です。キキはウルスラとの対話を通じて、外側の世界(街の人々の視線や期待)ではなく、内側の世界(自分の血、自分自身の意志)に意識を向け直すことに成功しました。ウルスラというキャラクターは、誰もが大人になる過程で通過しなければならない「自己受容の儀式」そのものを擬人化した存在なのです。