イングランド代表のキットヒストリーにおいて、最も激しい論争を巻き起こしたのが2024年欧州選手権(EURO2024)モデルの襟裏デザインでした。ナイキがホームシャツの首元背面に配置した「セント・ジョージ・クロス(白地に赤の十字)」に、従来の赤単色ではなく、パープル、ネイビー、ライトブルーを組み合わせたマルチカラーを採用したことが発端です。
ナイキ側は公式発表において、「1966年W杯優勝時のトレーニングウェアから着想を得た、遊び心のあるアップデート(playful update)」と説明し、団結と多様性を祝うデザインであると主張しました。しかし、この意匠変更が公開されるや否や、サポーターコミュニティのみならず英国内で猛烈な反発の嵐が巻き起こったのです。
当時の英国首相リシ・スナク氏や労働党党首キア・スターマー氏(現首相)をはじめとする政界トップが公に遺憾の意を表明し、「国旗は団結の象徴であり、いじるべきではない」と強く批判。元代表GKのピーター・シルトン氏らレジェンドたちも「伝統の軽視」として苦言を呈しました。SNS上のファンアンケートでは、実に7割以上が「配色の改変に反対」と回答する事態に発展したのです。
結果としてデザインの差し替え自体は行われませんでしたが、この騒動は「国家のアイデンティティとしての国旗」と「グローバルブランドによる先鋭的な商業デザイン」が正面衝突した象徴的な事例として、フットボール文化史に深く刻まれることとなりました。