食物アレルギーのなかでも、ナッツ類(木の実類および落花生)は「耐性獲得(耐性がついて食べられるようになること)」が極めて起こりにくいアレルゲンとして知られています。日本小児アレルギー学会などの臨床知見によると、乳幼児期に発症した鶏卵や牛乳のアレルギーは、消化器官の発達とともに学童期までに80〜90%程度が自然寛解に向かいます。しかし、ピーナッツや木の実類における自然治癒の確率はわずか10〜20%程度にとどまるのが実情です。
小児期の経過を追跡した国内外のコホート研究では、1〜2歳頃に発症した子どもの一部に数値の低下が見られるケースはあるものの、就学前後になっても抗体価が高止まりし、そのまま思春期以降へと持ち越される割合が多数を占めます。乳幼児健診やアレルギー外来の現場では、「小学生になれば自然と治る」という過去の一般的なアレルギーのイメージを持った保護者が、専門医から長期的な除去管理を告げられてショックを受ける場面が後を絶ちません。
さらに厳しい現実が存在するのが、大人の発症ケースです。「大人になってから発症したナッツアレルギーは治るのか」という問いに対し、臨床現場のアレルギー専門医は一様に「自然治癒は極めて期待しにくい」と見解を示しています。成人のアレルギーは免疫システムが完全に成熟・固定化した状態で成立しているため、特定のタンパク質を敵とみなすIgE抗体の産生経路が強固に維持され続けます。加齢に伴って消化力や代謝が衰えることも相まって、大人における完治の可能性は統計的にもほぼゼロに近い数値を示しています。
なぜナッツ類はここまで治りにくいのか。その根本的な理由は、ナッツに含まれる「種子貯蔵タンパク質(2Sアルブミン、7Sグロブリン、11Sグロブリンなど)」の分子構造にあります。これらのタンパク質は極めて強固な立体構造を持ち、加熱や胃酸、消化酵素にさらされても分解されません。消化管粘膜から未消化に近い状態で吸収され、免疫細胞を強力かつ持続的に刺激し続けるため、免疫寛容(アレルゲンを異物とみなさなくなる状態)が誘導されにくい性質を持っています。