読者や鑑賞者に強烈な視覚的トラウマと謎を残したのが、真珠の口元に広がるボロボロに崩れた黄色い歯並びです。彼女はなぜあのような異様な口腔環境のまま成人したのか。その理由は、本作における最も残酷な社会的告発を含んでいます。
真珠の正体は、誕生以来一度も出生届を出されずに育った「無戸籍児」でした。母親の環は男に依存する一方で真珠の存在を社会から完全に隠蔽し、一切の教育も受けさせず、甘い炭酸飲料ばかりを与えて歯磨きすら教えませんでした。健康保険証すら持たない真珠は、虫歯になっても歯科医院に連れて行ってもらえず、乳歯が抜け落ちても永久歯が正常に生え揃わないまま放置されたのです。
公判が進む中で、宮藤弁護士やアラタの働きかけにより、真珠は拘置所内で歯列矯正治療を受け始めます。徐々に美しく整っていく歯並びは、彼女が「モンスターとしての記号」を脱ぎ捨て、一人の人間としての尊厳や自尊心を取り戻していく心理的回復の過程そのものでした。自身の醜さをあえて武器にし、狂ったピエロを演じていた少女が、他者と対等な目線で心を通わせる準備を始めた瞬間でもありました。