氷川きよしが自身のジェンダー観や内面のあり方を公に語り始めたのは、デビュー20周年を迎えた2019年前後のことです。当時、大手週刊誌や文芸誌のロングインタビューにおいて、「演歌の世界で生きていく中で、男らしく生きようと無理を重ねてきた」「自分を押し殺して生きていくことに限界を感じていた」という赤裸々な胸の内を明かしました。
幼少期から歌うことが好きで、フェミニンな感性や美意識を持っていたものの、デビュー作『箱根八里の半次郎』の大ヒットにより「演歌界のプリンス」「礼儀正しい好青年」という強固なパブリックイメージが定着しました。ファンや関係者の期待に応えようと努力を続ける一方で、求められる「男らしさ」と自らの内面との乖離は年々深まり、精神的な孤独と強いプレッシャーが限界に達していたと本人は振り返っています。
転機となったのは40代への突入でした。「残りの人生を自分らしく、悔いなく生きたい」という強い決意が芽生え、これまで封印してきたメイクや中性的なファッション、ロックテイストの楽曲など、本来の美意識を前面に押し出すスタイルへとシフトしていきました。これは単なるイメージチェンジではなく、自己表現における生存戦略であり、魂の解放だったといえます。