ドラマ『家族ゲーム』において物語を牽引する最大の推進力となったのが、櫻井翔演じる家庭教師・吉本荒野の謎めいた存在感です。不気味な笑みを浮かべ、相手の心理的急所を容赦なくえぐる吉本荒野ですが、物語終盤で明かされたその出自と過去は、あまりにも悲痛なものでした。
結論から言えば、沼田家にやってきた吉本荒野は偽物であり、彼の本名は田子雄大(たご ゆうだい)という心優しい元中学校教師でした。田子はかつて、本物の吉本荒野(忍成修吾)と同じ学校で勤務していました。本物の吉本荒野は、表向きは爽やかで生徒思いの人気教師を装いながら、裏では生徒の真田宗多を陰湿にいじめ、自殺へと追い詰めた冷酷なサイコパスだったのです。
田子は真田を救おうと奮闘したものの、事なかれ主義の学校組織や同僚の無関心に阻まれ、結果として真田は命を絶ってしまいます。絶望した田子は本物の吉本荒野を激しく追及し、もみ合いの末に階段から転落させたことで、本物の吉本を植物状態にさせてしまいました。この耐え難いトラウマと激しい自己嫌悪から、田子は自らの名前と人格を捨て、「吉本荒野」という悪魔の名を名乗ることで、二度と真田のような犠牲者を出さないための過激な教育指導を全国で行うようになったのです。
劇中で吉本が頻繁に口にする「いいねぇ」という象徴的な名セリフは、沼田家の欺瞞や人間の醜い本性が露呈した瞬間に放たれます。一見すると他人の不幸を嘲笑うような冷徹な響きを持ちながら、その実態は「ようやく繕っていた仮面が剥がれた」「ここからが本当の再生のスタートだ」という、田子自身の歪んだ祈りにも似た感情の発露であったことが、物語が進むにつれて浮き彫りになります。