法的な手続きの煩雑さや「ヒナが巣立つまで待ってあげよう」という同情心から、ベランダの卵をそのまま放置する選択をする住人もいます。しかし、その先に待ち受けているのは、個人の生活空間を破壊する深刻な二次被害です。
第1のリスクは、鳩のフン害と重篤な感染症です。ハトのフンには多種多様な病原体が含まれており、乾燥したフンが粉塵となってエアコンの吸気口や窓の隙間から室内に侵入します。代表的なものとして、真菌(カビの一種)を吸い込むことで脳髄膜炎や肺炎を引き起こす「クリプトコッカス症」、高熱や重い呼吸器症状を伴う「オウム病」、アレルギー性気管支炎などがあり、高齢者や乳幼児がいる家庭では命に関わる危険性すらあります。さらに、巣の周囲にはトリサシダニなどの吸血性害虫が大量発生し、室内に侵入して住人を刺咬する被害も相次ぎます。
第2のリスクは、ヒナの鳴き声と悪臭による近隣トラブルです。孵化したヒナは生後10日を過ぎると、親鳥へ給餌をねだるために早朝から「ピーピー」「ピヨピヨ」と甲高い鳴き声を響かせます。これに伴う騒音被害に加え、大量のフンと腐敗したエサが混ざり合った異臭が隣室や階下のバルコニーに漂い、マンション管理組合を通じた深刻なクレームへと発展します。
第3のリスクは、ハトの強烈な帰巣本能による「巣の永続化」です。ハトは一度安全に繁殖を成功させた場所を「絶対的な安全地帯」として記憶します。巣立ったヒナが再び同じベランダへ戻ってくるだけでなく、親鳥自身も年に5〜6回という驚異的な頻度で産卵を繰り返します。一度の放置が、ベランダを「ハトの常設産卵場」へと変貌させてしまうのです。