大森公式が示す理論は、実際の震災の現場においてどのように現れるのでしょうか。過去の大規模地震における生存者の手記や特番インタビューを検証すると、初期微動の長さが人間の行動判断に致命的な影響を与えている事実が浮き彫りになります。
1995年の阪神・淡路大震災や2016年の熊本地震の前震・本震を経験した被災者たちの証言録には、共通して「初期微動をまったく感じなかった」「カタカタという音の瞬間に下からドカンと突き上げられた」という記録が残されています。震源が足元にある「内陸直下型地震」では、震源距離が極めて短いため、初期微動継続時間は1秒から2秒程度、あるいはほぼゼロ秒です。人間の脳が「揺れだ」と認識する間もなく主要動の直撃を受けるため、机の下に身を隠す猶予すら与えられません。
一方、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、震源域から数百キロメートル離れた首都圏のオフィスビルなどにおいて、全く異なる証言が数多く記録されています。「最初はめまいかと思うような小さな揺れが1分近くダラダラと続いた。周囲と『長いね』と話していたら、徐々に揺れ幅が信じられない大きさへ変わっていった」という証言です。
SNSや知恵袋の投稿を分析しても、「緊急地震速報のアラームが鳴る前に揺れを感じた」「速報が鳴ってから揺れるまで10秒以上の猶予があった」といった体感のブレに対する疑問が頻繁に見られます。この体感差を生む最大の原因こそが、初期微動継続時間と「震央と震源」の関係です。
地図上で示される「震央(地震が発生した直上の地表点)」と、地下の深さを含めた「震源」は異なります。震源の深さが極端に深い「深発地震」や、震源域が沖合数十〜百キロメートルに及ぶ海溝型地震では、初期微動継続時間は30秒から1分以上にも達します。現場のリアルな感覚として、「長くじわじわ続く初期微動」を感じたときは、震源が非常に遠く、かつ地震の規模(マグニチュード)そのものが超巨大である可能性を示唆しているのです。