世界遺産・田島弥平旧宅に隣接する田島家養蚕展示館の一体何が凄いのか――その最大の理由は、「日本の近代産業を根底から変えた技術革新のリアルな証拠」が濃密に凝縮されている点にあります。
明治維新期、日本の主要輸出品の約6割を生糸が占めていましたが、その品質を決定づけていたのは原料となる蚕の健康状態でした。当時、全国で蚕病が蔓延し壊滅的な打撃を受ける中、田島弥平(1822–1898)は温度と空気循環を科学的にコントロールする「清涼育(せいりょういく)」を考案しました。この換気理論を具現化した建築こそが、文久3年(1863年)に建てられた田島弥平旧宅の主屋です。
現在、田島弥平旧宅の主屋は居住者が生活を営む私有地であるため、敷地内の庭園から外観を見学する形が基本となっています。そこで決定的な役割を果たすのが、隣接する「田島家養蚕展示館」および「田島弥平旧宅案内所」です。館内では、外部からはうかがい知れない2階養蚕部や屋根の総櫓(そうやぐら)の内部構造を再現した精密模型、弥平自筆の理論書『養蚕新論』、そして当時使われていた本物の養蚕道具が惜しみなく公開されています。
単なる観光施設にとどまらず、現場のボランティア解説員による熱のこもった証言や、幕末から明治を生きた人々の息遣いがそのまま残されているからこそ、知的好奇心を刺激するディープな探訪スポットとして高い評価を得ています。