この根も葉もない噂が拡大した心理的背景には、高梨選手が歩んできたキャリアの中で巻き起こった「外見への過剰な視線」という日本社会独特の病理も色濃く反映されています。
10代前半でワールドカップ表彰台の頂点に立ち、あどけない笑顔で「天才少女」として国民的人気を集めた彼女は、20歳を迎えた頃から本格的なメイクや洗練されたファッションを取り入れるようになりました。彼女自身、かつての手記や単独インタビューにおいて「メイクは自分の気持ちを前向きにし、競技に向かうための大切なスイッチである」と語っています。トップアスリートが自己規律とモチベーション向上のために身だしなみを整えるのは極めて健全な営みです。
しかし、一部のオールドメディアやネットユーザーはこれを好意的に受け止めるばかりか、「すっぴんの少女時代」との対比をセンセーショナルに報道。「化粧にうつつを抜かしている」「競技に集中していないのではないか」といった、前時代的かつ的外れなバッシングを浴びせました。この「高梨沙羅の外見変化を監視し、品評する」という空気感がネット社会全体に醸成された結果、競技スーツのわずかなシワや影すらも下世話な好奇心の対象として弄ばれる下地が作られてしまったと言わざるを得ません。