国際報道や海外文学、映画作品を鑑賞する上で欠かせないのが、主要言語における祈りのフレーズです。特に西欧社会の教養・歴史的規範を理解する上で、ラテン語と英語の表現は基礎知識となっています。
ラテン語表記:典礼の古層に刻まれた響き
父と子と聖霊の御名においてラテン語表記は以下の通りです。
In nomine Patris et Filii et Spiritus Sancti.
(発音カナ転写:イン・ノミネ・パトリス・エト・フィリイ・エト・スピリトゥス・サンクティ)
前置詞「In」に奪格をとる名詞「nomine(名)」が続き、属格(〜の)として「Patris(父)」「Filii(子)」「Spiritus Sancti(聖霊)」が並びます。最後にヘブライ語由来の「Amen(アーメン=誠に、その通りになりますように)」を添えるのが定石です。バチカンで執り行われる教皇の公式ミサや、中世カトリックのグレゴリオ聖歌、レクイエム(鎮魂曲)の冒頭にも頻出するフレーズです。
英語表現:標準的な祈祷文のフォーマット
英語圏のキリスト教社会で最も広く使われる父と子と聖霊の御名において英語表現は以下の形式です。
In the name of the Father, and of the Son, and of the Holy Spirit.
(伝統的な英国国教会祈祷書やカトリック旧訳では "Holy Ghost" の語が用いられる場合もあります)
映画『処刑人』が決定づけたサブカルチャーでの受容
この祈祷文が現代の映画ファンやサブカルチャー層に強烈なインパクトを残した代表例が、カルト的人気を誇る映画『処刑人(The Boondock Saints, 1999年公開)』です。
ボストンに住むアイルランド系カトリックのコナーとマーフィーのマクマナス兄弟が、法で裁けない悪党たちを処刑する直前に暗唱する祈祷のセリフは、世界中のファンの間で語り継がれています。
"And shepherds we shall be, for Thee, my Lord, for Thee... In nomine Patris, et Filii, et Spiritus Sancti."
(主よ、あなたのために我らは羊飼いとならん……父と子と聖霊の御名において。)
ターゲットの頭部に銃口を突きつけながら、粛々とラテン語の祈祷文を唱えて引き金を引くこのシークエンスは、「神聖な典礼文」と「法外の私刑(ヴィジランティズム)」という強烈な対比を生み出しました。制作関係者のインタビューでも、この台詞は監督のトロイ・ダフィーがアイルランド系家庭で幼少期から刷り込まれたカトリックの儀礼的リアリティを劇的なカタルシスへと昇華させたものと明かされています。