クラゲを観察していて最も不思議に思えるのが、「脳がないのに、なぜ獲物を捕らえたり泳いだりできるのか」という点です。人間や魚類のような中枢神経系(脳や脊髄)は一切持たず、クラゲの脳みそが存在しない理由は、進化の過程で「集中管理」ではなく「局所分散」を選んだことにあります。
クラゲの全身には網目状に神経細胞が張り巡らされており、これを「散在神経系(diffuse nervous system)」と呼びます。刺激を受けた局所の神経が隣り合う神経へと信号を直接伝達し、反射的に筋肉を動かします。いわば、全身がひとつのセンサー兼プロセッサーとして機能している状態です。
また、心臓や血管といった循環器系も一切存在しません。栄養や酸素は、体表や体内の空洞を通じて細胞同士が直接拡散・浸透によって受け渡します。血液を循環させる高カロリーなポンプ(心臓)を持たないことで、捕食機会が限られる外洋でも極めて少ないエネルギー消費で生き延びられる適応進化を遂げました。