東京・神保町や新橋の老舗喫茶店を取材すると、長年鍋を振り続けてきたマスターたちから異口同音に返ってくる言葉があります。
「うちのナポリタンのコツ?特別な調味料なんて何もないよ。強いて言えば、ケチャップを焦げる寸前までしっかり焼くことと、麺を一晩寝かせて水分を吸わせ切ること。今の若い人は茹でたてを使いたがるけれど、それじゃソースを吸わないし、ただのケチャップ和えになっちゃうんだよね」(都内老舗純喫茶・店主談)
SNSや口コミコミュニティにおけるナポリタン愛好家の投稿を分析しても、高い評価を集める店舗には明確な共通項が見られます。「粉チーズとタバスコをかけて初めて完成する計算された濃さ」「シャツにケチャップが跳ねるのを恐れずにかき込みたくなる油の回り具合」「銀皿に盛られた熱々の佇まい」といった声が圧倒的です。
現代のパスタ専門店のような「アルデンテの歯ごたえ」や「素材本来の淡い風味」を喫茶店ナポリタンに求める人はいません。求められているのは、舌にダイレクトに訴えかける糖分・塩分・油脂の三位一体と、昭和の情景を喚起させるテクスチャーです。