『火垂るの墓』を象徴する重要アイテムといえば、節子が肌身離さず持っていた「サクマ式ドロップスの赤缶」です。母親の形見でもあったこの缶は、節子にとって生きる喜びであり、心の拠り所そのものでした。ドロップが底をついた後、清太が缶に水を入れて「ブドウの味や」「ハッカの味や」と節子に飲ませる描写は、飢えと困窮のなかで兄妹が育んだ切ない愛情の極致といえます。
しかし、極限の空腹はやがて節子の認識をも狂わせていきます。ドロップの代わりに色鮮やかなおはじきを口に含み、「あめさんや」と無心に舐める姿、さらには泥で作った団子を並べて「清太、ごはんやで。おあがり」と衰弱した笑顔で兄に差し出す光景は、観る者の胸を激しく締め付けます。栄養失調による幻覚と極限状態の健気さが同居したこのシーンは、映画史に残る屈指のトラウマ描写として記憶されています。
そして節子の火葬後、清太は小さな骨片を拾い集め、あのドロップ缶の中へと納めました。甘い飴が入っていた缶が、最終的に節子の遺骨を納める骨壺へと変わる演出は、過酷な運命と戦争の非情さを何よりも雄弁に物語っています。