現代の電子制御や高剛性フレームの基準から振り返ると、劇中でグンたちが操っていたマシンの挙動には驚くべき「リアル」が潜んでいる。当時の750ccクラスは「ナナハン」と呼ばれ、車重は230キログラムを超え、フレーム剛性は今日の基準から見れば極めてしなやか、言い換えれば常にねじれと隣り合わせだった。
作中で描かれたリヤタイヤの滑り出しや車体のローリングは、物理的な挙動の誇張ではない。パワーに対してシャシーとタイヤのグリップが追いついていなかった当時のマシンだからこそ、ライダーは荷重移動とスロットルワークで車輪のグリップ限界を正確に探り当てる必要があった。巨摩郡の走りは、マシンの弱点を天性の荷重コントロールでねじ伏せる究極の職人芸だったと言える。
限界付近で車体を滑らせながら向きを変えるドリフト走行も、現代のMotoGPで見られるような電子制御任せのスライドではなく、リヤのトラクションを手動で探り続けた結果生じたものだ。アナログ時代のモンスターマシンを乗りこなす凄みが、緻密な描線を通じて現代のエンジニアやライダーにも強烈な説得力を持って迫ってくる。