医学における「縫合(ほうごう)」とは、外傷や手術の切開によって離断した皮膚、皮下脂肪、筋膜、筋肉、血管などの生体組織を、専用の針と糸を用いて正確に引き合わせ、物理的に固定・連続性を回復させる医療手技を指します。傷口を密着させる目的は、創面からの出血を止め、外部からの細菌侵入を遮断し、生体が本来持っている組織再生能力を最大限に引き出して「一次治癒(瘢痕を最小限に抑えたスピーディな治癒)」へ導く点にあります。
臨床現場において、医師が創傷に対峙した際は、闇雲に縫い始めることは決してありません。日本形成外科学会や各種外傷診療ガイドラインに準拠した、厳密な創傷処置の手順が踏まれます。
第1ステップは「止血と創部の観察」です。圧迫止血を行いながら、腱や神経、主要血管の損傷がないかを神経学的な検査とともに精査します。第2ステップは「徹底的な洗浄と異物除去」です。実は、縫合の成否を分ける最大の鍵は縫い方そのものよりもこの洗浄工程にあります。大量の生理食塩水や水道水(微温湯)を用い、創内に潜む土砂、細菌、異物をジェット水流などで洗い流します。異物が残存したまま傷を閉じると、高確率で創部感染や外傷性刺青(皮膚の中に異物が沈着して黒く残る現象)を引き起こすためです。
第3ステップとして局所麻酔を施したのち、必要に応じて壊死した組織や挫滅の激しい創縁をミリ単位で切除・整形する「デブリードマン(創清掃)」を行います。新鮮で血流の保たれた創縁を整えたうえで、深部から表皮へと層ごとに組織を縫い合わせる「層別縫合」を実施し、最後に適切な被覆材で保護して処置が完了します。
現場における傷口縫合の判断基準としては、主に以下の3要素が総合的に評価されます。
1つ目は「組織の深さと開き具合」です。傷が表皮・真皮を突き破り、黄色い皮下脂肪層や白い筋膜、腱が露出している場合、あるいは創縁が自然に開いてしまって指で寄せても戻らない場合は、自然治癒(二次治癒)に頼ると治癒に数週間を要し、幅の広い醜い傷跡や拘縮を残すため、絶対的な縫合適応となります。2つ目は「受傷からの経過時間」です。医学界では一般に「ゴールデンタイム(黄金時間)」と呼ばれ、受傷後おおむね6〜8時間以内の新鮮創であれば一次縫合が選択されます。受傷から半日以上経過して細菌が創内で増殖している環境では、すぐに密閉すると内部で膿が溜まる危険があるため、あえて完全閉鎖せず開放創として管理する遅延一次縫合などが検討されます。3つ目は「出血のコントロール性」であり、持続的な拍動性出血や圧迫で止まらない出血は、血管結紮や創の縫合閉鎖が不可欠となります。