なぜ剣道はオリンピック競技化を目指さず、どこまでも「人間形成」という内面的な成長を目的とするのか。その本質は、竹刀の持ち方や足さばきといった身体動作の根底に流れる「剣の理法」という概念に隠されています。
剣の理法とは、刀の持ち味(刃筋、間合い、機会、身体の使い方)を正しく理に適った形で働かせる法則のことです。竹刀を単なる「打突の道具」として扱うのではなく、一撃が生死を分ける「真剣」として捉えることで、対峙する相手への恐怖や慢心、自らの弱さと徹底的に向き合うことになります。相手を叩きのめすことが目的ではなく、相手という鏡を通じて自分自身の心を調律し、日常生活においても誠実で強靭な人格を築くことこそが究極の狙いです。
全日本剣道連盟は、この理念を具体的な行動指針へ落とし込むため、2つの「心構え」を定めています。
平成19年(2007年)に「剣道指導の心構え」があらためて追加された背景には、子どもへの理不尽な指導や体罰を根絶し、「世代を超えて学び合う文化」として剣道を未来へ繋ぐという強い要請がありました。「技」を通じて「道」を求め、社会の活力を高めながら豊かな生命観を育むことこそが、今日における指導現場の絶対命題となっています。