マダニを警戒しなければならない最大の理由は、単なる皮膚炎ではなく、生命を脅かす重篤なウイルス感染症を媒介する点にあります。その代表格が「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。
国立感染症研究所などの公式発表データによると、SFTSはSFTSウイルスを保有するマダニ(フタトゲチマダニやタカサゴキララマダニなど)に刺咬されることで感染します。潜伏期間は6日〜2週間(多くは1〜2週間程度)で、主な症状は以下の通りです。
- 発熱:38度以上の急激な高熱
- 消化器症状:食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢
- 血液異常:血小板減少、白血球減少による出血傾向(皮下出血や下血)
- 神経・多臓器不全:意識障害、痙攣、肝機能障害、急性腎不全
SFTSの致死率は10〜30%と極めて高く、特効薬や確立された治療法は存在せず、対症療法が主となります。従来は西日本地域を中心とした報告が目立っていましたが、2020年代以降、ウイルスの北上と生息域の拡大が急速に進行しました。野生動物(シカ、イノシシなど)の生息域拡大や気候変動に伴い、現在では中部・関東・東北地域、さらには北海道に至るまで広範囲で感染事例や抗体保有動物が確認されており、全国どこにいても警戒が必要な段階に突入しています。
生息場所についても認識のアップデートが不可欠です。「深い山奥の藪」にしかいないというのは過去の常識です。実際には、都市近郊の緑道、河川敷の雑草地、ゴルフ場、住宅街の公園、自宅の家庭菜園や庭の草むらなど、身近なあらゆる緑地に潜んでいます。活動時期は3月から11月にかけてがハイシーズンですが、暖冬傾向が続く近年では冬期であっても咬着例が報告されており、通年での注意が求められています。