映画界において、ブロンソンには常に「現場で絶対に怒らせてはならない男」「ハリウッド喧嘩最強」という噂が付きまとっていました。当時の撮影現場には腕自慢のスタントマンや血気盛んな俳優たちが集まっていましたが、誰もがブロンソンに対してだけは敬意と警戒を怠りませんでした。
その最強伝説の根底にあったのは、見せかけのパフォーマンスではなく、リアルな修羅場で培われた冷徹なまでの胆力です。怒声を上げて威嚇するタイプではなく、理不尽な挑発に対しては声一つ荒らげず、冷たい視線で相手を見据えるだけで周囲の空気を凍りつかせました。ある現場で傲慢な態度を取る共演者に対し、静かに近づいて耳元で囁いただけで、その共演者が即座に青ざめて謝罪したという目撃談が業界内で語り継がれています。
しかし、そうした「喧嘩最強」の武勇伝とは裏腹に、実際の私生活におけるブロンソンは驚くほど穏やかで知的な家庭人でした。ハリウッドの派手なセレブパーティーには一切顔を出さず、夜は自宅で読書に没頭するか、趣味の油絵を描いて静かに過ごすことを何より好んだのです。絵画の腕前は玄人はだしであり、自身の繊細な内面をキャンバスにぶつけることで、スクリーンの暴力性と精神のバランスを保っていました。
また、前述の妻ジル・アイアランドに対しては、生涯にわたって一途な愛を捧げ続けました。ジルとは公私ともに最高のパートナーとして14本以上の映画で共演。1980年代にジルが乳がんに侵された際には、すべての仕事を投げ打って献身的に看病を続け、1990年に彼女が旅立つまで片時も離れず寄り添いました。スクリーンの非情な殺し屋というイメージの裏には、誰よりも深く家族を慈しむ温厚な男の素顔が存在していたのです。