爪が鮮やかな緑や黒ずんだオリーブ色に染まる現象は、一般に「爪カビ」と呼ばれる場面が散見されます。しかし、日本皮膚科学会の知見をはじめとする医学的エビデンスにおいて、これは真菌(カビ)の繁殖ではなく、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)と呼ばれる細菌の感染症であることが立証されています。
緑膿菌自体は、土壌や河川、家庭の水回り、さらには人間の腸内や皮膚表面にもごく普通に存在する「常在菌」の一種です。乾燥した環境では生存しにくく、病原性も決して高くありません。健康な皮膚表面にいれば何の害も及ぼさないこの菌が、なぜ爪先で鮮烈なグリーンへと色を変えるのでしょうか。
最大の鍵は、菌が増殖する過程で生み出す代謝物質にあります。緑膿菌は湿度の高い閉鎖環境に閉じ込められると、増殖に伴って青緑色の色素であるピオシアニンと、黄緑色の蛍光色素であるピオベルジンを大量に産生します。これら2種類の色素が半透明の爪甲(爪の硬い板状組織)の層間に染み込み、結合することによって、肉眼ではっきり確認できる特徴的な緑色の変色像を形成します。つまり、見えている緑色は菌そのものの塊ではなく、菌が排出した代謝色素なのです。
発症に至るグリーンネイルの原因とメカニズムの背景には、爪の微細な水分環境の変化が存在します。爪と人工爪の間にわずかな空隙が生じ、手洗いや入浴、家事による水分が毛細管現象で吸い上げられると、蒸発しにくい「多湿・微好気」の閉鎖空間が完成します。この好適条件が揃った瞬間、休眠状態に近かった菌が数時間から数日単位で急速分裂を開始し、爪甲を緑色に染め上げていきます。