お盆の時期に用意する二種類の野菜飾りは、合わせて「精霊馬」と総称されることが多いものの、正確にはきゅうりを「精霊馬(しょうりょううま)」、茄子を「精霊牛(しょうりょうぎゅう)」と呼び分けます。一見するとユーモラスなこの造形には、先祖を迎える遺族の深い情愛と知恵が凝縮されています。
古くからの言い伝えによると、足が速い馬に見立てたきゅうりには「あの世から一刻も早く家に帰ってきてほしい」という切なる願いが込められています。対して、どっしりとした体躯で歩みの遅い牛に見立てた茄子には、「この世での滞在を名残惜しみながら、少しでもゆっくり帰ってほしい」「供えられたたくさんの供養品や土産物を背中に乗せて、安全に運んでほしい」という気遣いが託されているのです。
なぜこの二つの野菜が選ばれたのかという点について、民俗芸能や祭礼儀礼の研究者は次のように指摘します。お盆が民衆の行事として定着した江戸時代において、きゅうりと茄子は初夏から盛夏にかけて各家庭の畑で豊富に収穫できる代表的な旬の恵みでした。高価な供え物を調達できない庶民であっても、大地がもたらした採れたての作物を捧げることで最大の感謝を示せるという、生活に根ざした合理的な農耕儀礼としての側面を持っていたのです。