レバ刺しを食べた後に発症する食中毒で最も厄介な特徴が、感染から発症までのタイムラグです。多くの人が「昨晩食べた刺身のせいで今朝腹を壊した」と考えがちですが、カンピロバクターによるレバ刺しの食中毒の潜伏期間は2日〜5日(最長で約7日前後)と極めて長期間におよびます。
週末に会食で鶏レバーを食べ、数日間は何事もなく元気に過ごしていたにもかかわらず、週の半ばになって突如として激しい悪寒や高熱に襲われるケースが典型的です。潜伏期間が長いため、本人が「数日前に食べたレバ刺し」が原因だと気付かず、単なる風邪や胃腸炎と誤認して初期対応を誤る事例が後を絶ちません。
典型的なレバ刺しによる食中毒の初期症状は以下の段階を経て悪化していきます。
まず発熱(38〜39℃前後の高熱)や激しい頭痛、倦怠感といった全身症状が現れます。続いて下腹部に絞り込まれるような激痛が走り、数時間の間に激しい水様性の下痢が繰り返されます。重症化すると1日に10回以上トイレへ駆け込むことになり、便に血液が混じる血便(下血)症状を伴います。脱水症状や激痛による体力消耗は凄まじく、成人男性であっても自力で歩行できず救急搬送されるケースは日常茶飯事です。
さらに恐ろしいのは、急性胃腸炎の症状が治まった後に待ち受けるギランバレー症候群のリスクです。カンピロバクターに感染した患者のおよそ1,000人に1人の割合で、感染から1〜3週間後に発症する自己免疫性の末梢神経障害です。カンピロバクターの菌体表面にある抗原が、人間の末梢神経の糖脂質と酷似しているため、菌を攻撃するために作られた抗体が誤って自分自身の神経を攻撃・破壊してしまうことで引き起こされます。
発症すると、まず手足の指先のしびれや脱力感から始まり、次第に麻痺が体幹へと上行していきます。重症例では歩行不能になって車椅子生活を余儀なくされるだけでなく、呼吸筋が麻痺して人工呼吸器の装着が必要となります。長期にわたる過酷なリハビリを経ても、手足の運動麻痺や感覚障害などの後遺症が生涯残る事例が報告されています。「たった一度のレバ刺し」と引き換えにするには、あまりにも重すぎる代償です。