1歳児にいくらを与えてはならない理由は、単に「生ものだから」という漠然とした不安だけにとどまりません。小児医療の観点から、生理学的に極めて深刻な3つの障壁が存在します。
第一の壁が、いくらの塩分と子供への影響です。厚生労働省が公表している『日本人の食事摂取基準』において、1〜2歳児の1日あたりの食塩摂取目標量は、男児で3.0g未満、女児で3.5g未満と極めて厳格に定められています。これに対し、市販されているいくらの醤油漬けには、100gあたり約2.3gから4.8gもの高濃度の食塩が含まれています。軍艦巻き1貫に載るいくらは約15g前後ですが、これだけで約0.4〜0.7gの塩分を一瞬で摂取することになり、1日の目標量上限の約20%を消費してしまいます。1歳児の腎臓は成人の3割から半分程度のろ過能力しか備わっておらず、急激な高ナトリウム負荷は内臓に過度な負担を強いることになります。
第二の壁が、いくらの食中毒リスクです。いくらの製造工程では加熱殺菌が行われません。そのため、海水由来の腸炎ビブリオや、冷蔵環境下でも増殖可能なリステリア菌、さらには寄生虫であるアニサキスの混入リスクをゼロにすることはできません。成人の強酸性胃液(pH1〜2)なら死滅させられる細菌であっても、胃酸酸度が低い1歳児の胃内環境では生き残りやすく、激しい下痢や嘔吐、重篤な脱水症状を引き起こす危険性を孕んでいます。
第三の壁が、プチプチとした膜(卵殻)の消化困難さです。いくらの粒は咀嚼力が未熟な幼児の口の中では噛み潰されず、そのまま丸呑みされるケースが多発します。その結果、消化されずに下痢として排泄されたり、胃腸炎に似た消化不良症状を引き起こしたりする現場報告が数多く寄せられています。