「プチッと潰して膿を出せば平らになるはずだ」という衝動的な自己処置は、粉瘤において最も破滅的な結果をもたらします。医療相談掲示板やSNS上には、自力圧出に挑んだ結果として想像を絶する惨状に見舞われた生々しい体験談が溢れています。
ある30代男性の会社員は、首の後ろにできた2cm大のしこりを「巨大な白ニキビ」と誤認し、入浴中に爪と指の腹を使って渾身の力で圧迫しました。「ブツッ」という鈍い手応えとともに少量の悪臭物質が出たものの、大半の内容物は皮膚の外ではなく皮膚の深部(皮下組織)に向かって袋が破裂。翌朝目覚めたときには首全体が熱を帯びて真っ赤に腫れ上がり、首を左右に動かすことすら不可能な激痛に襲われて形成外科の救急外来へ駆け込む事態となりました。
形成外科医が臨床現場で警鐘を鳴らすのが、この「炎症性粉瘤」への移行です。袋が破れると、長年密閉されていた変性角質や細菌叢が一気に皮下へ流出します。生体はこれを危険な異物と判断し、激しい異物反応と急性蜂窩織炎様の免疫攻撃を発動。患部は通常の数倍の大きさに膨れ上がり、ズキズキと拍動性の激痛が生じます。
炎症性粉瘤に陥った場合、通常の摘出手術は行えません。局所麻酔すら酸性化した組織には効きにくく、激痛の中で皮膚を小さく切開して内部のドロドロに溶けた組織と膿を掻き出す「切開排膿処置」を余儀なくされます。さらに、一度周囲の組織と癒着を起こすと、後日に行う袋の完全摘出が極めて困難になり、結果として切開範囲が広がって大きな傷跡が残ってしまうという重大な代償を支払うことになります。