かつて日本の外航クルーズ客船といえば、三菱重工業の代名詞でした。1991年10月に竣工した初代「飛鳥」は、三菱重工業長崎造船所で建造された純国産客船です。当時、日本郵船が客船事業へ本格参入するにあたり、技術力の結晶として送り出された同船は、2006年3月に現在の「飛鳥Ⅱ」へとバトンを渡すまで、名実ともに日本船籍最大のクルーズ船として君臨しました。
さらに現在活躍する「飛鳥Ⅱ」も、ルーツをたどれば1990年に三菱重工業長崎造船所で建造された「クリスタル・ハーモニー」です。つまり、郵船クルーズと三菱重工業の間には、昭和から平成の黎明期にかけて培われた揺るぎない信頼関係と、日本の海運・造船界を牽引してきた強固なパートナーシップが存在していました。
当時の長崎造船所には熟練の工員が集い、優雅な船体曲線を描く外板加工から細やかな居住区の艤装(ぎそう)まで、丁寧な手仕事が注ぎ込まれていました。業界内でも「飛鳥の血統は三菱重工長崎でしか紡げない」と語り継がれていたほどです。それだけに、新時代のフラッグシップとなる飛鳥3の建造先として三菱重工業の名が挙がらなかった事実は、多くの海事関係者に小さくない衝撃を与えました。