塩コショウで炒めた野菜は、確かに潔い。だが、それは料理人の腕と火力を残酷なまでに選ぶ。家庭用の貧弱なコンロでそれをやれば、野菜はみるみる水分を吐き出し、皿の底には薄い灰色のスープが溜まる。いわゆる「野菜の煮浸し化現象」だ。
そこに焼肉のたれが割り込むと、ゲームのルールが一変する。あれは単なる調味料ではない。林檎や梨のすりおろし果実、香味野菜の細胞破片、醸造酒、そしてアミノ酸が複雑に絡み合った「粘度を持つ液体兵器」だ。熱したフライパンに落ちた瞬間、果実の果糖と醤油の糖類がメイラード反応を一気に加速させ、香ばしいカラメル香の膜で野菜の表面をコーティングする。野菜の細胞壁から水分が逃げ出す前に、濃厚な旨味のヴェールで閉じ込めてしまうのだ。家庭の火力不足を、瓶の中の科学が見事にねじ伏せている。