自己愛性パーソナリティ障害の接し方に悩む人々が共通して口にするのは、「何をどう対応しても最終的に自分が悪者にされる」という不気味な徒労感です。一般的な人間関係であれば、誠意を持った対話や謝罪によって摩擦は徐々に解消に向かいます。しかし、このパーソナリティを抱える人物との間では、歩み寄ろうとする努力そのものが攻撃の格好の標的となります。
都内のIT企業に勤務していた30代女性は、上司からの激しい攻撃を受けた日々について、労働問題の専門家への相談記録の中で次のように述懐しています。「最初は『君の将来のために指導している』という言葉を信じ、指示通りに動いていました。しかし、上司のミスすらすべて私の確認不足にすり替えられ、同僚の前で連日1時間以上の罵倒が続きました。次第に『自分が無能だから怒られるのだ』と思い込まされ、思考が停止していったのです」。
精神分析や臨床現場において、これは「ガスライティング(Gaslighting)」と呼ばれる心理的操作手口として広く知られています。相手の現実認識や記憶を巧妙に歪め、「自分が悪いのではないか」という自己不信を植え付けることで、被害者を心理的に支配下に置きます。被害者が疲弊しきってしまう決定的な理由は、相手が問題の解決ではなく、「自身の全能感を満たすための優越感の獲得」を目的にコミュニケーションを行っている点にあります。
彼らにとって他者は対等な人間ではなく、称賛を供給し、不快な感情を肩代わりさせるための「道具」に過ぎません。その道具が自律した意思を示したり、正論で反論したりすることは、彼らの誇大な自己イメージを脅かす「耐えがたい屈辱」と認識されます。その結果、被害者は理不尽な自己愛憤怒の嵐に巻き込まれ、感情の安全地帯を完全に奪われていくのです。